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綾乃小説。
実家での母との会話です。
……緑は一体どんな恋愛をしたと言うのだろうか。
ゴメンナサイ。
一言言い訳すると今後用のSSです。
ある意味フラグ作り用。
その日、私は実家の修練場にいた。
神社の皆と共に、母に、祖母に挑んだあの場所で、私は母と武器を交えていた。
私の爪が獣のオーラを纏い攻め立てても、母はそれをなんなく避け、私に的確なカウンターを仕掛けてくる。
緩慢に攻撃を受け続ける私はやがて耐えきれず膝をつく――圧倒的な、力の差だった。
あの日、皆で相対した時にはさほどの脅威にも感じなかった、しかし、一対一で対峙した時、ここまでの力の差がまだ存在しているのだ。
「まだまだね。今日はここまでにしましょう、また出直していらっしゃい」
くずおれた私を見降ろし、かすかな笑みを浮かべて言う。余裕のある表情、まだまだ敵わないと知らしめるような。
――それでも、次は。次はダメでもその次には、超えてみせる。
軽く息を整え、立ち上がった私は、母と共に森の中央部にある屋敷へと戻った。
先の戦争を経験して、そして長年修業し身に付けた力を捨てた今、この身に宿る新たな力を完全に使いこなせるようにするにはまだ力量不足なのは分かっている。それが後悔を生む前に――その思い一つで、母に頭を下げ、毎週稽古をつけてもらうようになったのだった。
軽く水浴びをした後は、縁側で座禅を組む。最近稽古の後はいつもそうしている。心を落ち着け、自然の声を、ヤドリギの力に頼ることなく感じる、新たに身に付けた呼吸法の練習。同じ力を使う、母から教えてもらった練習法だった。
日も傾いてき始めたころ、集中も途切れてしまい、今日はここまでだろう、と、ふと足を崩した時、不意に母がお茶を携えやったきた。
「どうなさったのですか、お母様? 私を訪ねるとは、珍しいですね」
普段は稽古の後は顔を合わせることはない。素直な疑問がつい口をついてしまった。
「ちょっと貴女と、お話がしたくなったのよ」
言いながら、私の隣に腰掛け、お茶を淹れる。一連の動作は緩やかかつ優雅で、洗練されたもの。やはり流石、と感心せざるを得ない。見とれていると、母は笑いながら私にお茶を差し出した。
「あら、渡会の女たるもの、このくらいできないとダメよ? 素敵なカレシのためにも、ね」
まるで何もかも見透かされているかのような眼。お茶を受け取りながらも、思わずしどろもどろしてしまう。
「なっ!? こ、鋼誠くんの事、どうしてお母様が知っているのですか?」
「あら、鋼誠、っていうのね、あのコ。ふぅん……男気がありそうよね」
――しまった。カマをかけられた。そう気が付いた時には、もう遅かった。しかし、今の母には鋼誠くんが誰か、というところまで分ってしまっているらしい。先の事があったとはいえ……感服の洞察力だ。
「土蜘蛛……文献でしか知らなかったけれど、ほとんど人と変わらないのね。でも、貴女が私達の力を捨ててまで彼を選んだ気持ち、分らなくもないわ」
私達の、力。それを聞いた時、少しだけ胸が痛んだ。いずれ当主となるであろう人間が、その力を捨てたというのだ。問題にならないはずがなかっただろう。
「例え力を捨ててでも――私は、彼と共に在りたいと、この身を捧げたいと、そう願ったのです」
しかし、私にも決意がある、想いがある。彼のために、何よりも自分のために下した決断を、間違いとは思っていない。
「ええ、その考えは、女としては正解。でも――『渡会の』女としては、不正解ね」
不意に、母の顔が緊張を伴ったそれに変わった。思わず身が竦む。
「『渡会の』……女としては? どういうことなのですか、お母様?」
「簡単な話よ。『渡会の』女は三歩後ろを歩むことなど許されない。伴侶すら、侵略し、制圧せねばならない」
侵略? 制圧? 一体どう意味なのか分らない。
「お母様、一体それはどういう……」
「さて、そのくらいは自分で考えなさい? それじゃあ、私はもう行くわね。今日も、出かけるのでしょう?」
そう言って、さっさと茶碗を片付け、出ていく。後には狐につつまれたような感覚の私だけが取り残されていた。
それからしばらくして、今日も学校の一室に行くべく、用意を整える。そうする中でも、どうしても頭の中で母の言葉が反芻されていた。
「侵略……制圧……」
とりあえず、話し方を変えてみたりとか、そういうことなんだろうか。よくわからないけど。
「やってみるしか、ないわね」
なんとなく漠然とした決意で、家を出る。
そういえば、結社の友達にタロットで占ってもらった時も、もっと積極的に、って出てたっけ。
今のままでいい、そんなことはない。
もっと先に進む何か。