PBW(プレイ・バイ・ウェブ)『シルバーレイン』のキャラクターブログです。
わからない人にはわからないかも…。
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何気に恭一は魔弾術士というのもあって猫になれるのですが、めったに人前では見せません。
そんな彼が珍しく人前に猫の姿を見せた時のお話。
「さて……やろうかな」
夜のとある公園、僕は人目を忍んでそこにいた。僕は魔弾術士だ、その能力の一環として、猫にその身を変化させることができる。もっとも、自分の意志ではほとんどすることはないのだけれど、それでもやり方を忘れたりなんかしてしまうといけないので、こうしてたまに夜な夜な寮を抜け出しては人目のつかないところで少しの間だけ、猫として過ごす。
だが、この日ばかりは運が悪かった。
「あ、にゃんこだ」
声が聞こえた方向に目をやる。そこには暗がりから走り寄ってくる少年。おそらく小学生だろう。
ちょうど変身した後だったのは不幸中の幸いだったというべきか、まぁ見られていたとしても、結界のおかげでそれすら何らかの曲解された景色になっているだろうか、いや、それよりも。
「……にゃぁん(この状況、どうするかな……)」
今の僕は、黒い小さな猫だ。とりあえず人間に戻るわけにもいくまい。適当にやり過ごすか。
「君も、一人ぼっちなのかい?」
言いながら、彼は僕の頭を小さな手でなでる。……君も、か。察するに、何か事情を抱えた子なのだろう。街灯に照らされた頬を見れば、涙の流れた跡があった。
「にゃ?」
彼は何か事情を背負って生きているんだろう。少しだけでも、彼の慰めになるのなら一緒にいてもいい気がした。
我ながら随分とセンチになったものだ。昔だったら、こんなこと風には思わなかっただろう。他人は他人で、自分は自分。銀誓館に来るまでは、ずっとそうやって過ごしてきた。こう思うようになったのも、きっと、皆と一緒に脅威を相手にしたり、楽しい時間を共有してきたからなのだろう。
「僕はね、いつも学校でいじめられてるんだ。クラスの皆は僕のことをシカトしてる。関わり合いになりたくないからって。でも、僕が我慢すればいいだけの話だから、それでいいんだ。皆を巻き込みたくないからさ」
彼はいじめられっ子だったのか。と、どこか納得すると同時に悲しくなった。こんな優しい子の心を、どうして皆平気で踏みつけられるのだろう、蔑ろにできるのだろう。もしそいつらがここにいるのなら、今すぐ魔力の炎に包んでやりたいくらいだと、そう考えていた矢先。
「おい、お前こんなとこで何してんだよ」
「猫なんかと遊んでやがる。まぁ、人間にはお前なんかの友達は誰もいないもんなぁ?」
いかにもガキ大将、といった感じの小学生にしてはちょっと大柄な男の子が二人そこにいた。なるほど、こいつらが彼をいじめているのか。
「君、逃げて。君に危害が加わるといけないから」
小声で、彼は猫の僕にささやいた。ああ、この子はこの期に及んでまで自分より他人の、むしろ猫の僕のことまで気にかけることができるのか。
「にゃぁん」
彼の腕の中から解放されると、僕は近くの茂みに隠れこんだ。彼に従って逃げるためではない、変身を解いて、ガキどもを止めるためだ。
すぐさま変身を解除し先ほどの場所に戻れば、今まさに少年は殴られんとするところだった。
「やめろ、このクソガキども」
自分でも思いがけない言葉だ。だが、それよりもまずやることがある。ガキが掴みかかっているその手を強引にほどいた。
「くそ、何だよおまえ、関係ないだろうがよ」
もう一人のガキが自分たちが正しいんだとばかりに突っかかってくる、ふん、知ったことか。
「この子をいじめることは許さない。失せろ」
精一杯、にらむ。最初に突っかかってきた方は怯んだようだが、もう一人はむしろそれで火がついたようだ。
「んだよ、てめーには関係ないんだよ、俺らがむかつくからそいつ殴んだ、文句あるかよ!?」
「文句どころの話じゃあない。今後この子に手を出してみろ、お前ら二人とも消し炭にしてやる」
こっそりイグニッションして、隠し持ったハーモニアスから火花を飛ばす。こいつらにはどう見えてるかわからないが、危ない奴だと思われればそれでいい。
「くそ、おい、いくぞ」
「あ、おい、待てよ」
どうやら、こちらの思惑通りいったらしい。彼らはすごすごと引きあげて行った。
「君、大丈夫?」
「え、あ、ありがとうございます。でも、どうして……?」
「ほんのお礼さ。楽しい時間を過ごさせてもらった、ね。……いじめに負けないでね」
「え?」
「なんでもない。それじゃあ」
呆気にとられている彼を尻目に僕は家路につくべく公園を出た。
「負けないでね……か」
少し肌寒い夜の風も、照れくさいことを言って赤くなった頬にはちょうど良い。もう一度猫になって、僕は夜の路地を駆けた。
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