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PBW(プレイ・バイ・ウェブ)『シルバーレイン』のキャラクターブログです。 わからない人にはわからないかも…。
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 綾乃の闇に迫るお話です。
ひょっとしたら、今の綾乃とは別人のように感じるかもしれません。
しかし、これは彼女の事実です。どうか受け入れてくださればと思います。



――渡会の一族は『責任』と『呪い』を継ぐ。『責任』とは、植物とともに一生を在ること、『呪い』とは、渡会の子は代々女子しか生まれないことである。

「……くだらない、古い言い伝えなどに縛られて、何が魔女だ」

 渡会の森の中、一際大きな大樹の根元で、彼女――渡会 綾乃は一言つぶやいた。

 その手には幾分古びた本が開かれ、達筆な字がそこには綴られていた。

 それは歴代の渡会当主が遺した手記であり、彼女はついぞ先刻まで、森の最深部にある屋敷で、祖母からの直々の『授業』を受けていた。そこでは、一般教養から帝王学、そして『魔女の力』たる、ヤドリギ使いの能力の使い方に至る、あらゆる知識を叩きこまれる。そんな授業に嫌気がさして、彼女は祖母から逃げて来たのだった。

「そうは思わない? 皆?」

 虚空に向かってぽつりと投げかける。風も吹いていないというのに植物がざわめいた。まるで意思を持ち、彼女の言葉に賛同するかのように。

「貴方達は素直ね、大好きだわ。人間は……くだらない考えにばかりとらわれるから大嫌い。お母様もお祖母様も。でも恭ちゃんは……人間だけどちょっと好きかしら」

 当時、綾乃が話すことができる外界の人間は、従姉弟の恭一ただ一人であった。彼は彼女の肉親のように何かを押しつけることをしない。そういう意味では少しだけ彼は好意的だ。だが、彼もまた、綾乃の考えを覆すには至らない『例外』だった。

 総てが、くだらない。彼女は、失望していた。渡会の人間は、その一生を森の中で過ごさなければならない。叔母さん――恭一の母親は、この渡会の一族だが、掟を破り、外界で男の人と一緒になった。綾乃はひそかに彼女にあこがれを持っていた。とはいっても、それが憧れという感情だということも、まだ彼女は理解できていないのだが。

 やがて、再び風もないのに植物たちが騒ぎ始めた。先刻よりも激しく、まるで何かを訴えるかのように。

「――ッ! 来たのね……」

 すっくと、立ち上がる。その先には、30代、あるいは20代後半にも見えようかという若い女性。だが、その出で立ちは『奇妙』であった。

 さながら忍者といった格好で、両手にはクナイや忍者刀のようなものも見受けられた。女性はゆっくりと綾乃に向かって歩く。

「綾乃、また逃げ出したのね?戻りなさい、お母様がお待ちかねよ」

 それは綾乃の母親、渡会 緑だった。はなから話して従うとも思っていないくせに――。舌打ちを一つして、綾乃は護符を構えた。

「貴女達に大人しく帰順するつもりなど毛頭ないわ。今度こそ私は貴女を超える!」

 勇んでみたものの、正直綾乃は勝ち目を感じてはいなかった。いくら訓練を積もうと、まだ彼女は完全な覚醒を遂げていなかったのだ。

「私もね、綾乃?貴女にかかずらってる暇はないのよ……」

 一息ついて、緑は指を一度鳴らす。たちまち茨が現れて、綾乃を襲う。『茨の領域』と呼ばれる技、いつもはここで捕まってしまう。

「皆……力を貸して!」

 護符を正面に構える。今日はいつもとは何かが違った。いつもは何も起こらず、ただ捕まるばかりなのに。今回は綾乃の周囲の植物たちが綾乃を取り囲むようにその体を覆い、茨の侵入を封じた。

「小癪ね……ならば、これでどう?」

 まるで獣の咆哮のような地響きが一つ、続いて周囲の空気が変わった。異様な雰囲気が武器に込められ、そして放たれる。

――獣激拳!

 獣のオーラを封じたその一撃は、綾乃を覆っていた植物たちをたやすく砕いた。砕け散り逝く植物たち

 無と化していった、大切な友達。 

 瞬間、綾乃の中で、何かがはじけた。自分を敬愛する者たちを、自分達が敬うべきものたちを、破壊した。コノオンナヲユルセナイ――。

 それは、あまりにも刹那の出来事。声にならない咆哮をあげ、その長い黒髪を振りみだす少女は、その周囲に大木を浮かべていた。そして彼女は指差す、己の敵を。そうして、大木は緑に向かって飛んでいく。『森王の槍』だった。

「――――ッ!?!?」

 覆面越しにも恐怖とわかる表情。それが、その時綾乃の見た緑の表情だった。その後は、まるでテレビの画面を消したかのように目の前が深い闇になった。次に目が覚めたのは、屋敷の自室だった。

「ん……ここ、は?」

「目が覚めたんね」

 目の前にいたのは当主、渡会 志乃だった。どうやら看病してくれたいたらしい。それに戸惑いつつも、志乃が付いてきなさい、と一言言って去っていくのを慌てて追いかけたので、深くは考えられなかった。

「これを御覧」

「そん、な…………」

 そこは綾乃の秘密の場所だった。しかし、今はもう、そこには『何もなかった』。一本の草木すらも存在しない荒れ野原、それは、綾乃の力の暴走だった。

「おんしゃは完全に、能力者として覚醒した。ええか、綾乃。よう見ぃ、これがおんしゃの力じゃ。これを御できなければ、今後おんしゃはもっと多くの自然を、あるいは人を、傷つけるやもしれん」

「これを……私が?」

 驚愕。その言葉に尽きた。森でひときわ高い大木すらその姿を無くした『そこ』にも、失った友達も。何もかも、思考が追いつかなかった。

「これ以上、友達を傷つけたくないのならば……学びなさい、綾乃。術を。古く伝わる、渡会の力を」

「え……?」

 振り返ればそこには、体を包帯で包んだ緑がいた。綾乃の能力の残滓と言ったところか、その体には物々しく白に覆われていた。

「う…あ…」

 理解できない感情が綾乃を襲う。初めて、その力で人を傷つけた、何かを奪った。あふれ出るそれは、パンクしそうになった。

「うああああああ!」

 気がつけば、泣いていた。膝をつき、泣いて、泣いて、泣いた。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。私、わた、し……」

 その日は、一晩泣き続けた。自分の犯した過ちを嘆き続けた。それを元気づけるかのように、その日の夜は木々のざわめきが止むことはなかった。

 翌日から、綾乃は人が変わったかのように熱心に勉強することになる。それは償いだった。自分の持つ力を制するための術を身につけること。それが、自らの暴走で命を散らした植物たちへの報いになると信じて、熱心に机に向かった、護符に向かった、何よりも、自分自身に向かった。

 渡会 綾乃、10歳のころの話である。

 その6年後、銀誓館に彼女が入学することになるのだが、それはまた別の話だ。







 どうも、朔望です。今回は綾乃の真実について迫る話でした。このような出来事を通じて、今でも彼女は『何かを傷つけること』『何かを護ること』に無意識にも大きな反応を示します。10歳にして人間に絶望したこともある彼女、その後の6年間は筆舌にしがたいものでした。や、いずれ載せますが。

 まだ綾乃はこれを皆に話すか迷っています。自らのすべてをさらけ出すにはまだ一抹の不安がある様子で。しかし、いずれきっちりとお話しさせていただく予定ですので、仲間の皆さんは、お覚悟を(笑)

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